水泡性角膜症(角膜がにごる病気)
水泡性角膜症(すいほうせいかくまくしょう)
角膜が濁る病気である、【水泡性角膜症】について説明します
角膜とは、黒目の皮で、光が目に入るのに最初に通過する膜です
光が通過するためには、角膜は透明である必要があります
角膜が濁ってしまうことを【角膜混濁】といいます
水泡性角膜症になると、角膜混濁がおこります
【水泡性角膜症とは?】
角膜が透明であるためには、非常にたくさんの生体システムが働いています
角膜は5層からなります(角膜上皮、ボーマン層、角膜実質、デスメ層、角膜内皮)
角膜の一番内側の角膜内皮には角膜内皮細胞が並んでいます
「角膜内皮」に注目すると、角膜内皮は、目の中の水(前房水ぜんぼうすい)に直接ふれています
前房水は、角膜内皮を通過して、角膜の実質に入ります
角膜内皮細胞は角膜実質に入り込んだ水を汲みだして、再び目の中(前房)に戻す、ポンプのような働きをしています
この角膜内皮細胞が何らかの原因でダメージを受けると角膜に侵入した水を汲みだすことができず、角膜は白く濁り、むくんで分厚くなってしまいます
⇒この状態が「水泡性角膜症」です
【水泡性角膜症の症状】
全体的にかすんで見えにくくなる
かすみはゆっくりと悪化し、良くなることはない
角膜の表面にキズができると(角膜上皮障害かくまくじょうひしょうがい)、目が非常に痛くなる
【水泡性角膜症の原因】
①レーザー虹彩切開術後(こうさいせっかいじゅつご)
レーザー虹彩切開術は、緑内障に対するレーザー治療
水泡性角膜症の原因として最も多いのがこのレーザー治療
なぜ、レーザー虹彩切開術後に角膜内皮細胞が障害されるのかは分かっていないが、慢性的な前房水(角膜の内側にある水)の流れの変化や温度の変化などが、角膜内皮にダメージを与えるのではないかという説がある
②白内障などの眼科手術後
次に多いのが、目の手術で角膜内皮細胞がダメージを受けた場合
角膜内皮細胞は正常の半数程度に数が減っても水泡性角膜症にはならない
そのため、通常の手術では、水泡性角膜症にはならないが、何らかの原因で手術前から角膜内皮細胞が少ない場合や、手術が難しくて長時間を要した場合などは、手術後に水泡性角膜症になってしまうことがある
③角膜内皮ジストロフィ
遺伝的に角膜の内皮に異常をきたす病気(遺伝性角膜内皮ジストロフィ)では、進行すると角膜内皮水泡症になる
④角膜移植後の拒絶反応
角膜移植後の角膜が拒絶反応を起こした場合などに水泡性角膜症が生じることがある
⑤角膜内皮に炎症がある場合
角膜内皮に炎症があるとダメージを受けて水泡性角膜症になる
炎症の原因はウィルスなどが考えられている
⑥長年のコンタクトレンズ装用
長年(10~20年以上)コンタクトレンズの装用を続けていると角膜内皮細胞が減少する
特に昔のコンタクトレンズは酸素透過率が低かったため、角膜内皮に対するダメージが大きかった
※長年コンタクトレンズを使っている人は、眼科受診の際は申告しましょう※
【水泡性角膜症の検査】
角膜内皮細胞の数は測ることができる
=角膜内皮細胞数測定検査、スペキュラマイクロスコピー
眼科手術の前にはこの検査を行い、手術後に水泡性角膜症になるリスクがどの程度かを判定する
正常な人では、角膜内皮細胞の数は、1㎟あたり2000~3000個程度
目に手術をすると、角膜内皮細胞は必ず減少する
そのため、手術前の角膜内皮細胞数は1㎟あたり1000個以上は必要
800個以下になると手術後に水泡性角膜症になるリスクが非常に高くなる
※この検査は当院で実施しています※
【水泡性角膜症の治療】
内科治療として薬物治療があります(対症療法)
ステロイド剤の点眼や注射です
疼痛対策として、治療用ソフトコンタクトレンズ装用や眼軟膏があります
薬物治療が無効の場合は手術の適応になります
外科治療としての手術は根本治療です
※これらの治療方法や手術などで当院で実施していないものは別医療機関への紹介となる場合があります※
【水泡性角膜症の手術】
従来は、全層角膜移植術(ぜんそうかくまくいしょくじゅつ)
角膜の中央部をまるごと(全層)置き換える手術
術後に乱視が多く、視力が良くないことが問題点
近年は、角膜内皮だけを移植する手術(DSAEK)が主流となる
DSAEK(Descement's-stripping automated endothelial Keratoplasty)
※これらの手術は当院で実施しておらず別医療機関への紹介となります※
角膜混濁は視力、見え方に影響がでる場合があります
異変に気が付いたら、眼科医に早めにご相談ください
参考文献
「眼科インフォームド・コンセント ダウンロードして渡せる説明シート」2018
監修 下村嘉一 編著 國吉一樹
「眼科コメディカルのための眼科学ガイド」2005
編集・発行 社団法人 日本眼科医会 眼科医療従事者委員会
2021/2/4